HANKO JAPONISM
ハンコは基本的に「必要になって買う」商品です。
逆に言えば「欲しくて買う」商品ではありません。
私は長年にわたって、
「”必要だから買う”のではなく、”欲しいから買う”商品を創って世に問いたい」
という願望を抱き続けてきました。それをようやく初めて具現化せしめたのが、漢字と英字が彫られた外国人向けハンコ Dual Hanko です。
実際、Dual Hanko を注文にご来店のお客様は日本人・外国人を問わず、とても楽しみながら当てはめる漢字や付属のポーチをお選びになり、仕上がりの印影をご覧になって「素晴らしい!」と満面の笑顔を浮かべてくださいます。
自分が産み出した商品が、遠く離れた外国の方に喜ばれる-それは少額の利益など遥かに凌駕する感動を与えてくれます。
そして2年前のある日、同業者との何気ない会話の中で、新たな商品開発へのヒントが思いがけず舞い降りてきました。
同業者の店にフラリと立ち寄ったフランス人が目をとめたのは、商品としてのハンコではなく、店主が業界内の技術競技会に出品した作品でした。
そこに彫られていたのは文字ではなく、絵柄(仏画)と紋様。それは「密刻」といって、どのくらい細かい線が彫れるのかを競う分野の出品作です。
もう10年以上前の作品で、その後はずっと店頭に置いてあったので表面はすっかり干からびていて、実際に捺印することはできません。つまり、もはやハンコ本来の目的を果たすことができない、単なる飾り物でしかなかったのです。
ところが、フランス人は何を思ったのか「これ買いたい」と言い出しました。そして1万5千円もの代金を払い、喜んで持ち帰っていったというのです。
それを聞かされたとき、私の脳裏に2つのキーワードが瞬時に浮かび上がりました。
■いかにも日本的な絵柄のハンコ
■注文品ではなく、その場で買って帰れるハンコ
そこで最初に思い描いたのが、
「日本的を代表する自然や建物+和柄デザインの組合せのハンコ」
早速、中学2年のとき同級生だったデザイナーに富士山と桜花、そして青海波のイラストを依頼し、友人の印鑑職人にも「富士山」の筆文字を書いてもらい、 それらを組み合わせたハンコを彫ってみました。
仕上がりには特に問題はありませんでしたが、かといってこんなハンコが実際に外国人観光客の購買欲をそそるのか? そんな不安と疑念が生じたのも事実です。
しかも知人の弁理士によると「富士山のような自然造形物は問題なかろうが、有名な建造物(特に京都の寺院など)のイラストを商品化することは、著作権侵害にあたる可能性がある」とのこと。
それを聞いてこの案は早々に断念のやむなきに至りました。
では、有名な建物以外で日本的なモノと言えば、寿司や天ぷらなどの料理・徳利や猪口など日本酒を表す酒器・仏像・浮世絵・・・どれもハンコに彫る絵柄としてはインパクトが弱いように感じられます。
・・・待てよ、浮世絵といえば・・・キモノ! 同じ流れでサムライ! ニンジャ!
アイデアには「ハマりどころ」とが存在すると、勝手に考えています。いかにも日本的なキモノ・サムライ・ニンジャは、ハンコのデザインにピッタリくるデザインで、瞬時にそのイメージを想起できます。
メインとなるデザインの概要が決まれば、アイデアはそこからさらに広がります。キャラクターと和柄のほかに、城や五重塔などの日本的な背景を加えることを思いつきました。(もちろん具体的に特定されることのない、一般的なイメージに基づく建造物のイラストでなくてはなりません)
さらにそれぞれの要素を別のハンコに彫ることで、位置を合わせて捺すことができれば、版画のように多色の印影が得られるのではないか? 商品名も「ハンコで表す日本文化」の意味を持つ HANKO JAPONISM (ハンコ・ジャポニスム) に決めました。
こうなると構想はとどまるところを知りませんが、所詮はまだ絵に描いた餅、妄想にすぎません。まずもってメインとなるキャラクター制作を誰に依頼するか?イラストレーターを選んで発注できるWebサイトがあることも知りましたが、実は人物をメインに据えることを思いついた時点で、私には意中の人がありました。
いまから30年前、当時仕事をお願いしていた別のデザイナー経由で知り合ったイラストレーター。当時は単なる飲み友だちでしたが、特に彼が描く女性の艶っぽさは強く記憶に残っていました。
つてをたどってどうにかイラストレーターと連絡がつき、2019年2月初旬、上野駅近くの居酒屋で25年ぶりに再会してイラスト制作をお願いしました。
数か月後、彼から送られてきた人物と背景のイラストはいずれも素晴らしい出来で、その上、中学同級生のデザイナーが、主役の人物を額縁にオーバーラップさせるという実に画期的なアイデアを思いついてくれたこともあって、どれもキャラクターが飛び出てくるような立体的で迫力のあるデザインに仕上がりました。
しかし、いくらデザインが素晴らしくとも、美しい印影が得られなければ商品になり得ません。当初は一般的な木製のハンコを考えていて、何度もサンプルを彫刻しましたが、普段ハンコを捺し慣れていない外国の方が果たしてきれいに重ね捺しができるかを冷静に考えると、この案は最終的に断念せざるを得ませんでした。
代わって浮上したのが、いわゆるインク内蔵タイプのスタンプ。なんといってもインク内蔵だから誰でも簡単に捺印できます。しかもカラーは5色と豊富です。
その後も幾度となく試行錯誤を重ねながらそれぞれの配色パターンを決め、併せてWebサイトも自作していよいよ発売開始・・・という段階で、ある身近な人物から次のような指摘をいただきました。
「既製品とは別に【名入れ版】も用意した方が良いのでは?」
確かに、Dual Hanko が多くのお客様にお喜びいただいているのも、そこにお使いになる方のお名前が彫られてるからに他なりません。
そこで急遽【名入れ加工品ヴァージョン】を20点追加、【既製品】20点と合わせて40点での展開となりました。
着想から2年を経て、このたびようやく発売に至った HANKO JAPONIM ですが、実際に売れるかどうかはまったくの未知数です。
今は1人でも多くの外国のお客様に捺印を楽しんでいただきたいと願っています。
・・・と、ここまで書いたのが2020年2月、ところがこの後状況は突如として一変。世界中で猛威を振るう新型コロナウィルスにより、外国からの観光客はほぼゼロになってしまいました。今は状況が一刻も早く好転するのをただひたすら待つばかりです。
■2024.03.07追記
HANKO JAPONIMは令和5年度 東京都中小企業振興公社 海外デジタルマーケティング支援事業に選定されました。
下記リンクから同公社制作のWebページ・動画をご覧いただけます。
Celebrating Japanese Culture through Stamps: Hanko Japonism®
※HANKO JAPONISM は有限会社 文福堂印房の登録商標です。